NSAも解けなかった暗号 -ビール暗号に眠る巨万の財宝は本当に実在するのか?

バージニア州の森のどこかに、金や銀、宝石を詰め込んだ財宝が埋まっている。
その場所を示す手掛かりは、意味のわからない数字の列として残されている。暗号を解けば巨万の富にたどり着けるはずなのに、いまだに誰も確実な場所を突き止めていない。
今回のテーマは、19世紀アメリカに残された歴史ミステリー「ビール暗号(Beale Ciphers)」です。
ただ、この題材で本当に大切なのは、「200年近く解読されていない暗号」という謎を追うことだけではありません。そもそも、暗号の向こう側に財宝が存在するという前提そのものが、歴史的に証明されていないからです。
ここで、ひとつの疑問が浮かびます。暗号が解けないことと、財宝が実在することは、本当に同じ意味なのでしょうか。
この記事では、1885年に公刊された文書に書かれた「物語」と、後世の研究者による検証を丁寧に分けながら、その問いを辿っていきます。

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暗号大全 原理とその世界 (講談社学術文庫 2439)

■200年近く眠り続ける、数字の羅列

バージニア州の森のどこかに、金や銀、宝石を詰め込んだ財宝が埋まっている。

その場所を示す手掛かりは、意味のわからない数字の列として残されている。暗号を解けば巨万の富にたどり着けるはずなのに、いまだに誰も確実な場所を突き止めていない。

今回のテーマは、19世紀アメリカに残された歴史ミステリー「ビール暗号(Beale Ciphers)」です。

ただ、この題材で本当に大切なのは、「200年近く解読されていない暗号」という謎を追うことだけではありません。そもそも、暗号の向こう側に財宝が存在するという前提そのものが、歴史的に証明されていないからです。

ここで、ひとつの疑問が浮かびます。暗号が解けないことと、財宝が実在することは、本当に同じ意味なのでしょうか。

この記事では、1885年に公刊された文書に書かれた「物語」と、後世の研究者による検証を丁寧に分けながら、その問いを辿っていきます。

■発端は1885年――ビール文書が世に出た日

物語の出発点は、19世紀初頭の出来事そのものではありません。1885年に公刊された『The Beale Papers』という小冊子です。

この文書によれば、トマス・ジェファーソン・ビールという人物が仲間たちと財宝を集め、バージニア州ベッドフォード郡に埋めたといいます。そして1822年、宿屋の主人ロバート・モリスに鍵のかかった箱を預け、そのまま姿を消したと語られています。

何年経ってもビールは戻らなかった。やがてモリスが箱を開けると、中には三枚の暗号文が入っていた – 小冊子は、そう説明します。

ただし、ここで立ち止まる必要があります。これらは確認済みの歴史的事実ではなく、あくまで小冊子に記された物語だからです。

当時のアメリカでは、西部への探検熱が高まり、金銀への関心も強く、財産を安全に隠すという発想も珍しくありませんでした。物語はそうした時代の空気を背景にしています。しかし、ビール本人の実在や財宝の埋蔵が、独立した資料によって裏付けられているわけではありません。

私たちは「物語として語られている部分」と「別の証拠で確かめられる部分」を、最初から分けて読む必要があるのです。

■三つの暗号に託された、財宝への地図

小冊子に掲載された暗号文は三つ。それぞれ異なる役割を持つと説明されています。

第1暗号:財宝の埋蔵場所。未解読。物語の最大の謎であり、財宝伝説の核心です。

第2暗号:財宝の内容。解読されたとされる暗号で、財宝の量や構成が記されています。

第3暗号:財宝を受け取る人物。未解読。所有者や相続人に関する情報だとされています。

第2暗号の解読に使われたのは、アメリカ独立宣言の文章を鍵とする「ブック・サイファー(書籍暗号)」という手法です。暗号文の数字は、独立宣言の何番目の単語かを示している。その単語の先頭の文字を取り出していくと、英文が浮かび上がる仕組みです。

不思議なことに、同じ方法を第1・第3暗号に当てはめても、意味のある文章にはなりません。そのため、別の文章が鍵なのではないかと、多くの挑戦者が試行錯誤を続けてきました。

ただし、解読結果が得られたことは、暗号の由来や財宝の存在まで証明したことにはなりません。この区別を、記事全体の軸に据えて読み進めていきます。

■金約1.3トン、銀約2.3トン――信じがたい財宝の正体

第2暗号の解読文には、二度に分けて埋めたとされる財宝の内容が記されています。

最初が1819年。二度目は1821年。その合計は、金2,921ポンド、銀5,100ポンド、さらに宝石類だとされます。換算すると、金は約1.33トン、銀は約2.31トンに相当します。

これほどの財宝が本当に埋められていたなら、発見者の人生を一変させる規模でしょう。

ただ、現代価値として「数千万ドル」といった金額が紹介されることがある点には、注意が必要です。金銀の価格は時期によって大きく変動し、宝石の評価額にも不確実性があります。ですから、金属の重量という「記述」と、現代の推定価値という「計算」は分けて考えるべきで、金額を示すなら換算した時点を添えるのが誠実です。

そして、ここでもうひとつ問いが生まれます。これほど大量の貴金属を運び、埋め、秘密を守り通したという話に、物証は残っているのでしょうか。

■なぜ第2暗号だけが解けたのか

ここから、考察を一段深めます。

三つの暗号のうち、財宝の内容を示す第2暗号だけが解読され、場所を示す第1暗号と、受取人を示す第3暗号は未解読のままです。

これは単なる偶然なのでしょうか。それとも、読者に「あと一歩で宝が見つかる」と思わせる構造になっているのでしょうか。

考えられる方向性は、大きく三つあります。

1.本当に実在した暗号だという説:実在する暗号だが、正しい鍵となる文章や解読手順がまだ見つかっていない。

2.一部が創作だという説:何らかの情報や実話をもとに、財宝の物語と暗号が後から組み立てられた。

3.全面的な創作だという説:未解読の数字そのものが、財宝が存在するかのように見せるための仕掛けだった。

いずれも検討に値する仮説ですが、現段階で一つに決めつけることはできません。大切なのは、暗号の「難しさ」と物語の「信憑性」を、別々に検証することです。

■原本はどこへ消えたのか――物語を疑う研究者たち

ビール暗号をめぐる最大の問題は、財宝がまだ見つかっていないことだけではありません。

暗号文やビールの手紙の原本は、現存が確認されていません。伝説の中心となる資料は、基本的に1885年の小冊子を通じて伝わっているのです。

暗号研究者のルイス・クルーは、1988年に発表した論考などで、小冊子の記述の矛盾や文体の比較などを根拠に、財宝の物語は創作だと論じました。もちろん、これは一つの研究者の見解であり、すべての人が同意しているわけではありません。それでも、検証すべき点を具体的に示した意義は大きいといえます。

そこで、次の三点を丁寧に見ていきます。

・ビールは実在した人物なのか。同時代の記録から、小冊子の人物像を独立して確認できるのか。

・暗号文は当時作られたものなのか。1820年代に作成されたという説明を裏付ける、年代の確かな原資料は存在するのか。

・第2暗号の解読は、財宝の証拠になるのか。文章として読めることと、その内容が史実であることは、別問題ではないのか。

こうして検証を重ねていくと、暗号の未解読という謎の背後に、より根本的な「証拠の出所」という問題が見えてきます。

■NSAも解けなかった?――公的資料と都市伝説の境界

ビール暗号の話で、ひときわ目を引くのが「NSA」の名前です。

アメリカ国家安全保障局(NSA)の公開資料には、暗号史に関する文献とともに、ビール暗号が捏造かどうかを論じた研究も収録されています。そこでは、第2暗号が独立宣言を鍵として解読されたこと、第1・第3暗号が未解読であること、そして物語の信憑性に疑問が呈されていることなどが説明されています。

しかし、「NSAの資料に掲載されている」ことと、「NSAが暗号解読に挑み、失敗した」ことは、同じ意味ではありません。

タイトルの「NSAも解けなかった」という言葉は、読者の目を引くための表現です。実際には、NSAが解読に失敗したと断定できる根拠を、私たちは持っていません。

同じことは、反対の噂にもいえます。「NSAは秘密裏に解読済みで、財宝を回収した」という話です。裏付けとなる証拠が示されていない以上、これは事実ではなく、後世の憶測として扱うのが適切でしょう。

公的資料に名前が出てくる。それだけで、物語は急に重みを帯びる。都市伝説と史実の境界は、こうした小さな「ずれ」から曖昧になっていくのです。

■なぜ人々は、存在が証明されていない財宝を追い続けるのか

ここでは、歴史的事実から一歩進んで、人間の心理を考えてみます。

財宝が見つからないことは、普通なら伝説への疑念を強めるはずです。ところがビール暗号の場合、「未解読」という状態そのものが、「まだ可能性が残されている」という期待を生み出してきました。

しかも、第2暗号には具体的な重量が記されています。金や銀の数量が明示されることで、架空かもしれない話が、あたかも現実の財産目録のような印象を帯びてくる。

数字の羅列は、読み解けないからこそ、何か重要な情報が隠されているように感じさせます。未解読の部分が残る限り決着は先延ばしにされ、次の挑戦者が現れる余地も残り続ける。

これはビール暗号だけの話ではありません。歴史ミステリーでは、証拠の不足が謎を終わらせるのではなく、むしろ想像の余白を広げてしまうことがあるのです。

ただし、こうした心理的な説明は、財宝が捏造だったことの証拠ではありません。あくまで、なぜこの伝説が長く語り継がれてきたのかを理解するための考察です。

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■暗号が解けたとき、財宝まで見つかるのだろうか

仮に明日、第1暗号が解読されたとしましょう。数字が示す場所が判明すれば、すべての謎は解決するのでしょうか。

もし現地に財宝がなければ、解読が間違っていたのかもしれません。財宝がすでに持ち去られていた可能性もあります。あるいは、暗号そのものが最初から財宝とは無関係だったのかもしれません。

つまり、暗号の解読と財宝の発見は、別々の問題なのです。

記事の冒頭に戻ります。私たちが本当に追いかけているのは、地中に眠る金銀なのでしょうか。それとも、数字の向こうに何かがあると信じたい、人間の想像力そのものなのでしょうか。

「財宝は絶対に存在しない」と断定することも、「今もどこかに眠っている」と期待をあおることも、この物語の本当の面白さを損なってしまいます。ビール暗号の真の謎は、証拠の乏しい物語が、なぜ長い年月を超えて人々を魅了し続けてきたのか、という点にあるのかもしれません。

The end

最後までお付き合い下さり有難う御座います、この記事があなたの明日を少しだけ彩るスパイスとなれば嬉しいです。​​​​​​​​​​​​​​​​

Thank you for reading to the end. I hope this article adds a little spice to your day tomorrow.

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投稿者: toshi196747

1967年生 文化遺産 など先人の轍を感じる物事が好きです、又 fenderギター を愛するguitar弾きです。 愛犬cookieに癒されながら、好きな読者と記事更新に勤しんでいます。 人が宿すノスタルジーという心情には夢を含みます、そこには明日の創造へ繋がるインスピレーションを得る『温故知新』が有るのです。 どうぞ過去考察ブログ『time slip cafe retro-flamingo』よろしくお願い致します。