1968年から1974年にかけて、アメリカ西海岸、とりわけカリフォルニア北部で発生した未解決連続殺人事件がある。通称「ゾディアック事件」。犯人は自らを“Zodiac”と名乗り、銃撃や刺傷による襲撃を重ねたとされる。 事件は現在も公式に解決しておらず、関連資料の一部は Federal Bureau of Investigation の公開アーカイブ「FBI Records: The Vault – Zodiac Killer」でも確認できる。法的には未解決のまま、社会的記憶の中で語り継がれている事案である。
ここで事実関係を整理しておきたい。現在、捜査当局が公式に関連を認めている被害は5人死亡・2人負傷である。一方、差出人は手紙の中で「37人を殺害した」と主張している。 この数字の乖離は、 Zodiac Killer case をめぐる評価を複雑にしている。犯行の誇張や自己演出の可能性も含め、資料上確認できる範囲と、犯人側の主張は区別して扱う必要がある。
未解読の暗号 ― Z340と現代解析
ゾディアックが送付した暗号のうち、340文字から成る「Z340」は長年解読不能とされてきた。 2020年、米国の暗号研究家デイヴィッド・オランチャック、豪州の数学者サム・ブレイク、ベルギーの解析者ヤール・ヴァン・エイクから成る民間チームが解読に成功したと発表し、その結果は Federal Bureau of Investigation によっても確認された。 内容は犯人の自己顕示的主張を含むもので、従来の推測を一部裏づける形となったが、依然として未解読の暗号は残っている。
1968年、ビートルズは「ホワイトアルバム」に収録された前衛的な実験作「Revolution 9」で音楽界を震撼させた。この8分22秒の音響コラージュは、ジョン・レノンの芸術的野心が爆発した作品だった。その中で繰り返される「number nine, number nine…」という声が、逆再生すると「turn me on, dead man(俺を興奮させろ、死んだ男よ)」と聞こえるという噂が広まった。
「I’m So Tired」を逆再生すると「Paul is dead man、 miss him、 miss him」と聞こえるという主張も加わり、ファンたちは狂気的にビートルズのレコードを逆回転させ始めた。もちろん、これらは聴覚的パレイドリアによる錯覚だった。しかし、この「大いなる隠蔽工作」という物語は、バックマスキングという現象を大衆文化に根付かせる決定的な瞬間となった。
② レッド・ツェッペリン「天国への階段」―悪魔との契約
ロック史上最も議論され、最も恐れられたバックマスキングの伝説が、1971年に発表されたレッド・ツェッペリンの不朽の名曲「天国への階段(Stairway to Heaven)」に纏わるものだ。
1982年、テレビ伝道師ポール・クラウチがTBNの番組で衝撃的な主張を行った。この曲を逆再生すると、「my sweet Satan(我が愛しき悪魔)」「there’s no escaping it(それから逃れることはできない)」「He will give those with him 666(彼は従う者に666を与える)」といった悪魔崇拝のメッセージが聞こえるというのだ。
1983年には、論争への完全な回答として『Secret Messages』というアルバムをリリース。その中には「Welcome to the big show」「You’re playing me backwards」といった、逆再生で聞こえる数々のメッセージが散りばめられていた。これは、バックマスキング騒動を皮肉った、知的で洗練されたアートだった。
逆再生すると、こう聞こえる: 「Congratulations. You have just discovered the secret message. Please send your answer to Old Pink、 care of the Funny Farm、 Chalfont…(おめでとう。あなたは秘密のメッセージを発見しました。答えはオールド・ピンク宛て、ファニー・ファーム、チャルフォント…)」
「Roger! Carolyne’s on the phone!(ロジャー!キャロラインから電話!)」「Okay(オーケー)」
そのリストには、ジューダス・プリーストの「Eat Me Alive」、モトリー・クルーの「Bastard」、AC/DCの「Let Me Put My Love Into You」、ツイステッド・シスターの「We’re Not Gonna Take It」、マーシフル・フェイトの「Into the Coven」、ブラック・サバスの「Trashed」、ヴェノムの「Possessed」などが含まれていた。
スティクスは、アルバム『Kilroy Was Here』で、架空の検閲団体「Majority for Musical Morality(音楽道徳のための多数派)」がロック音楽を違法化するという物語を描いた。そして、アルバムカバーには「この音楽には秘密の逆向きメッセージが含まれています」というステッカーを貼り、実際に「Heavy Metal Poisoning」には米ドル紙幣に書かれたラテン語「Annuit cœptis, Novus ordo seclorum(神は我々の事業を支持した、時代の新秩序)」を逆再生で挿入した。