
あなたの苗字は「150年前の制度」から生まれた
日本人なら、必ず持っているものがあります。
それは――苗字です。
佐藤、鈴木、田中、高橋。
現在、日本には30万種類以上の苗字が存在すると言われています。
しかし、ここに一つの驚くべき事実があります。
日本人の多くは江戸時代にも「家の呼び名」や「屋号」を持っていました。しかしそれは公的な苗字ではなく、役所に登録される正式な姓ではありませんでした。
日本人の大半は「苗字を持っていなかった」のです。
大変化を引き起こしたのが、1875年(明治8年)に明治政府が公布した「平民苗字必称義務令」でした。
この法律によって、日本史上初めてすべての国民が苗字を名乗る社会が誕生したのです。
江戸時代、苗字は「特権階級の証」だった
現代では想像しにくいですが、江戸時代の日本では、苗字は誰でも持てるものではありませんでした。
苗字を公的に名乗れるのは主に、公家と武士といった支配階級に限られていました。
つまり、苗字とは単なる名前ではなく、身分を示す記号だったのです。
農民や町人にも家の呼び名のようなものは存在しましたが、それは公的な苗字ではありません。役所や公文書では基本的に「太郎」「次郎」のような名前のみで扱われていました。
苗字は、社会階層そのものを示す「記章」だったのです。
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明治維新が壊した「名前の身分制度」
1868年、明治維新が起こります。
新政府が最初に取り組んだのは、近代国家の制度作りでした。西洋型国家には、国民・戸籍・税・軍隊の管理のために個人を識別する制度が必要です。
しかし当時の日本では、苗字がない人が大多数でした。
これでは戸籍も、徴兵も、税制度の管理もできません。
そこで政府はまず、1870年(明治3年)に「平民苗字許可令」を公布します。平民も苗字を名乗ってよい、という法律でした。
しかし――ここで予想外の事態が起きます。
日本人は苗字を「つけたがらなかった」
政府は「苗字を名乗ってよい」と許可しました。
ところが、多くの人は苗字を作ろうとしませんでした。
その理由は、非常に現実的なものでした。人々はこう考えたのです。
「苗字を登録したら、税金を取られるのではないか」
明治政府はまだ不安定な新政権でした。民衆の間には、徴税・徴兵・戸籍管理への警戒心が強かったのです。
結果として、苗字は「許可されたのに普及しない」という奇妙な状況が生まれました。

1875年、日本政府は「苗字を強制」する
そこで政府は最終手段に出ます。
1875年(明治8年)2月13日、太政官布告として公布されたのが「平民苗字必称義務令」でした。
その内容は極めてシンプルです。
「これからは必ず苗字を名乗ること。祖先以来の苗字が不明な者は新しく作れ。」
つまり――苗字が無いなら作れ、という命令です。
これにより、日本全国で史上最大規模の「苗字創作ラッシュ」が始まりました。
日本の苗字が爆発的に増えた理由
1875年、日本中の人々は突然こう言われました。「苗字を作りなさい」
当然、全国で即席の苗字が生まれます。
その多くは、住んでいる場所そのものから作られました。
田んぼの中に住んでいれば「田中」、山のふもとなら「山本」、川のそばなら「川口」。方角から「東」や「西」が生まれ、地元の自然から「松本」「石田」「林」が生まれました。
地域によっては、役場の役人や村役人、寺院の住職が苗字の登録を手伝った例も記録に残っています。
地形・方角・自然・職業――ありとあらゆるものが苗字の材料になりました。こうして現在の「30万種類」という膨大な苗字の多様性が生まれたのです。
こうして日本は「苗字社会」になった
その結果、戸籍制度・徴兵制度・税制度といった近代国家の基盤が一気に整います。
苗字は単なる名前ではありません。それは国家が個人を把握するための装置でもあったのです。
ひとりひとりの「名前」が、国家の管理システムと結びついた瞬間――それが1875年でした。
あなたの苗字は「明治の発明」かもしれない
この法律によって、日本は全国民が苗字を持つ社会になりました。
もしあなたが日本人なら、その苗字は江戸以前から続く武士の苗字かもしれません。
しかし多くの場合、1875年前後に作られた苗字である可能性が高いのです。
つまり、あなたの家の名前は150年前、突然生まれた可能性があります。
苗字とは、古代から続く神秘の血統ではなく、近代国家が生み出した制度だったのです。
あなたが何気なく書き続けているその苗字は、何百年の歴史を持つ名門かもしれません。
しかし同時に、明治のある日、役場の帳簿の上で生まれた「近代国家の発明」である可能性もあるのです。
終わり
最後までお付き合い下さり有難う御座います、この記事があなたの明日を彩るスパイスとなれば嬉しいです。